デトロイト美術館の「アメリカのゴッホ」展

Japan Cultural Development/ 10月 9, 2022/ Museum

[2022-10-3]

2022年10月2日から一般公開となったゴッホ展の中でいくつか興味のある作品をご紹介します。(注:余談も混在)

デトロイト美術館 理事 大光敬史

デトロイト美術館の「アメリカのゴッホ」展

 [Part-1]
デトロイト美術館のゴッホ展

 
いよいよ明日10月2日からデトロイト美術館で始まるゴッホ展、昨日内覧会に行って来ました。世界から集まった70点の彼の絵画の数々、堪能してきました♪

デトロイト美術館の「アメリカのゴッホ」展

まずは会場入り口にVan Gogh in Americaという展示会のたれ幕。そして最初に目に飛び込むのはVincent’s chair with his pipe. ロンドンナショナルギャラリー所蔵の一品。1888年の作で、すでに狂気が彼を包んでいるようです。FBで幾つか気に入った作品を順次ご紹介しますが、ぜひ皆さんもデトロイト美術館に足を運んで実物に感動して下さい。展示会は来年1月中旬までです。

デトロイト美術館の「アメリカのゴッホ」展
 

 [Part-2]
デトロイト美術館のゴッホ展

 

話が前後してしまいますが、今回のデトロイト美術館の展示会のテーマは「Van Gogh in America:アメリカにおけるゴッホ」で、1920年代のゴッホへのアメリカの反応などを中心にストーリーが展開される展示会です。

この絵画「Undergrowth with Two Figures」は、1890年のゴッホの作品です。ポプラの木々の中の人物とポプラの木々の根元に咲く多彩な色の下草を描いていて、紫色が美しい絵です。この作品は購入者が見つかるまでに何度も大西洋を渡ったそうです。それだけまだ当時のアメリカでのゴッホの名、作品は注目されていませんでした。

デトロイト美術館の「アメリカのゴッホ」展

ついにこの作品が買われたのは1929年でした。それから所有者は変わりますが、最後には1940年代、シンシナティの高名な慈善家で数々の偉業を残していったMary Johnston女史の所有となります。彼女はシンシナティに本社を置く大企業Procter & Gamble、つまりP&G社の創業者Procter氏の家族でした。

彼女が1967年に死去した際に、遺贈としてシンシナティ美術館にこの作品は寄付され常にその館内で見られるようになりました。私も2年半前にこの作品をシンシナティ美術館で見ていますが、今回デトロイト美術館でも見られて幸運でした。

 

 [Part-3]
デトロイト美術館のゴッホ展

 

このデトロイト美術館のゴッホ展に先立って、今年の春に名古屋でもゴッホ展が開かれました。その中にひときわ輝いていた作品の一つが、この「Yellow House:黄色い家(オランダゴッホ美術館所蔵)」でした。1888年ゴッホはアルルにあるこの家を借ります。ゴーギャンとの共同生活となる家です。この家はもう現存していないですが、ゴッホの絵画がその実在した事を残していました。

デトロイト美術館の「アメリカのゴッホ」展

今回デトロイト美術館ではこの黄色い家の作品展示はありませんでしたが、1889年にその二階の部屋を描いた「The Vincent’s Bedroom:ビンセントの寝室」の展示がありました。この作品はシカゴ美術館の所蔵ですが、1900年代に当時の現代アートコレクターであるシカゴのBartlett氏が25点の絵画を寄付した中に含まれていました。この作品の前に、もう二点同じ寝室の絵があり、一つはパリのオルセー美術館、そしても一つはオランダのゴッホ美術館にあります。書いた年代順によると最初がゴッホ美術館の作品、次が今回の展示作品(シカゴ美術館)、そして最後がオルセー美術館のものでこの作品は最初の二作品より2/3くらいのキャンバスサイズです。またこの家を飾るためにゴッホは有名な「Sunflowers:ひまわり」を含め多くの絵を書いています。

デトロイト美術館の「アメリカのゴッホ」展

 

 [Part-4]
デトロイト美術館のゴッホ展

 

この絵は「ドービニーの庭園: Daubigney’s Garden(バーゼル美術館)」という1890年の作品です。解説によると「オーヴェルにきて以来構想していたもの」で最も慎重に計画された絵と弟のテオに書簡を書いているそうです。今回のデトロイト美術館の展示作品の他にもう一枚が広島市美術館にあります。私も3年ほど前この作品を広島で見てます。

デトロイト美術館の「アメリカのゴッホ」展

デトロイト美術館で今回展示されていたバーゼル版のほうが先に書かれたのですが、ゴッホはもう一度この広島版となる絵を書いています。バーゼル版は力強いストロークで描かれていますが、広島版はちょっとそれが弱く、色合いも若干柔らかく、色使いも大分違いを感じます。ゴッホはあえて二枚目を違った思いで描きたかったのでしょうか?

そして、もう一点明確に違うところは、左下隅に描かれている黒猫です。広島の作品にはこの黒猫が消されたあとがあります。誰がそれをやったのかはわかりません。どちらにしても謎の多いこの作品なぜそうしたのか・・?こちらにもう少し詳しい情報がありますので、ご興味のある方は参照ください・・・>>https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60710

デトロイト美術館の「アメリカのゴッホ」展

 

 [Part-5]
デトロイト美術館のゴッホ展

 

デトロイト美術館の展示の最後(つまり出口に一眼近い)作品は、こちらの1888年の「Starry Night over Rhone:ローヌ川の星月夜(オルセー美術館所蔵)」です。糸杉とともに書かれた星月夜も有名ですが、この作品は、ゴッホのアルル時代にローヌ川堤防の風景を描いたものです。弟のテオに「夜景に興味を持ち始めた」とゴッホは書簡を送っています。星とガス燈の違った光の色、輝きや、川面へのそれらの光の反射など、輝きの多い作品です。また手前には恋人の姿もあり、ロマンチックな絵で私も好きになった作品です。また名古屋市美術館での話に戻りますが、そちらにもクレラー=ミュラー美術館から「Road with Cypress and Star:夜のプロバンスの田舎道」という夜景の絵画が展示されていました。こちらも一番出口に近いところにデーンとありました。絵画の写真を参考に付けておきます。

また余談ですが、Immersive Van Goghという「没入型ゴッホ」のショーが世界的にヒットしており、デトロイトの公演も見てきました。まさにゴッホの絵画の中に自分が舞い込んだような仕掛けで、流行りのプロジェクション・マッピングの映像をふんだんに使います。そこでもこの星月夜絵画の数々が輝きを放ち目を楽しませます。なんとも素晴らしい体験でした。

日本では東京や他の大都市では、こういったショー(例えばモネのもの)は随分前からやっていましたが、ゴッホのショーは日本初上陸はなんと私の故郷名古屋(次は神戸)だそうです。12月10日から「没入型ゴッホ」のショーが開催されるらしいです。(ちなみに、料金はアメリカだと$50、名古屋は2500円とのことで、超良心的値段!!)

デトロイト美術館の「アメリカのゴッホ」展

【日本初上陸】
名古屋・神戸にて開催決定! 全世界850万人が感動した五感で体験する没入型展覧会ゴッホの世界に飛び込め!ゴッホ・アライブ

*詳しい情報は以下のリンクへ
中京テレビ放送/「ゴッホ・アライブ」神戸会場実行委員会のプレスリリース
https://www.atpress.ne.jp/news/328019

デトロイト美術館の「アメリカのゴッホ」展

 

 [Part-6]
デトロイト美術館のゴッホ展

 

私のデトロイト美術館のゴッホ展レポートの最後を飾るのは、やはりこちらの絵画ですね。ゴッホの1887年の自画像です。この作品は1922年1月に、デトロイト美術館がアメリカの美術館多々ある中で初めてゴッホの作品を購入した記念すべき作品です。ゴッホが多く書いた自画像のうち一つですが、麦わら帽をかぶったこの自画像は、その後1956年のハリウッド映画「Lust for Life:炎の人ゴッホ」で巨匠ヴィンセント・ミネリ監督により映画化されますが、主役のカーク・ダグラスのメークアップはこの自画像そっくりでした。映画は大ヒットとなり、助演したアンソニー・クイン(ゴーギャン役)はアカデミー賞助演男優賞を得ています。

デトロイト美術館の「アメリカのゴッホ」展

余談ですが、私はこの夏に鳴門市にある大塚国際美術館に行く機会がありました。この美術館ですが、大変ユニークで多くの名作が陶板に描かれ焼かれて展示されています。世界中の美術館や教会などに行かなくても、ここ一箇所で見られる・・・、といっても本物ではありませんが。大塚国際美術館ではオリジナルを所蔵している美術館、個人、財団、教会などと連携し許可を得て実物そっくりに作っています。陶板の焼き物工場があるのは三重県信楽です!

私も3時間ほどで駆け足で見た中で、デトロイト美術館の所蔵のこの作品を見つけられて嬉しかったです。

長々とレポートを連ねてきましたが、ほんの一部を紹介させてもらいました。もっとゴッホのことを知っておられる方も多いかと思います、ご参考の足しになったでしょうか?

されど百聞は一見にしかず!ぜひこの秋、ゴッホに会いにデトロイト美術館を訪れ、良い時間を過ごされてはどうでしょうか。

以上。

The DIA’s Van Gogh in America Exhibition Collection

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