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日本美術の冒険者 チャールズ・ラング・フリーアの生涯
中野明著 / 日本経済新聞出版本部 / 3850円
著者:なかの・あきら=1962年、滋賀県生まれ。ノンフィクション作家。『流出した日本美術の至宝』や経済学者「ピーター・ドラッカー」に関する著書など多数
チャールズ・ラング・フリーアはデトロイト市のミッドタウンにある通称Freer House に住居を持っていた。鉄道事業で莫大な財を成した彼は40歳代で実業界から身を引き、東洋美術に魅了されていく。特に日本の美術蒐集では、卓越した審美眼を持って当時まだ日本では無名であった俵屋宗達を始めとする「琳派」学派の作家たちを見出していく。日本にあれば国宝間違いないと言われる「松島図屏風」を当時わずか$5000(今の数千万円)で手に入れる。本書の中では彼の実業家としてのクールな面も記載され、欲しい美術品の値段交渉なども記載され大変興味深い。
数千にも及ぶ日本を含むアジア古美術のコレクションは、残念ながらデトロイトにはもはやなく、アメリカ合衆国の首都ワシントンDC にあるスミソニアン博物館の一角にフリーア美術館にすべて収蔵されている。これは美術品に加えて美術館の建物と購入予算、そして将来必要であろう美術品保全活動費用もすべてチャールズ・ラング・フリーアが米国国家に遺贈したものである。また彼は当時の米国作家であるジェームズ・ウィスラーを支え多くの作品を蒐集している。有名なピーコックルームは見事にフリーア博物館内に再現されている。
本書の面白さに、1800年代の末期から1900年の初頭にかけて彼が日本国内を旅したくだりがある。トーマス・クック社のガイドブック(もうその頃からあった!)を手に、日本人の車夫や通訳を雇いながら約4ヶ月間個人旅行を楽しんだ。そんな旅を続けながら彼は車夫や通訳らと心を通じあわせていく。
日露戦争後の1907 年、フリーアは日本を再訪する。実業家で古美術収集家の原富太郎(横浜の三渓園の持ち主であり関東大震災後の横浜復興に資材を投入)とは意気投合するものの、ライバルの益田孝(三井物産創業者)は、目が利くフリーアが日本の名品を海外へ流出させるのを警戒して距離を置いた。ただ後に、益田はフリーアが単なる蒐集家ではなく、美術品を心底愛しており、国家への遺贈を決めていた話をデトロイトの Freer House で聞く。
それまでフリーアの美術品購入を阻害していた彼は、フリーアなら美術品を守ってくれる人間と認め、蒐集の支援者へと変わっていく。
蒐集家たちの集めた折角の美術品が、死去とともに散財されしまうという行く末を見るたびに大変残念な思いを抱くことがあるが、フリーアのように国の財産として未来永劫に渡って秀逸な美術品を伝えていこうとする姿はまさに時空を超えたトラベラー・冒険者だと思わせる。ぜひ Freer House (ミシガン州デトロイト市)や Freer Gallery (ワシントンDC)への冒険旅行を皆さんも!!
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